無痛分娩とは?完全に無痛になるの?メリット・デメリットや麻酔方法を助産師が解説!

分娩期妊娠後期無痛分娩
2024-07-25

陣痛時の痛みは「鼻の穴からスイカを出すくらい」と例えられるほど。この陣痛の痛みを和らげながら出産をするのが無痛分娩です。欧米では無痛分娩が当たり前のように行われていますが、具体的に無痛分娩とはどのような方法なのでしょうか?

この記事では、無痛分娩の定義や分娩時の麻酔の方法、無痛分娩のメリット・デメリットについてご紹介します。

監修プロフィール
現役助産師の顔写真
助産師
ひょうどう ゆか
兵頭 友華
京都大学医学部、京都大学大学院医学研究科を卒業後、都内の大学病院に入職して助産師として勤務。現在は都内の産婦人科クリニックに勤務しつつ、産後支援を兼ね備えたニューボーンフォトグラファーとして活動。
目次

1. 無痛分娩とは

無痛分娩とは、麻酔を用いて出産に伴う陣痛を和らげる方法です。

日本では無痛分娩の費用は自己負担である場合が多いため、その利用率は海外諸国と比べても低い水準に留まっています。

2020年4月に厚生労働省が発表した『令和2年医療施設調査・病院報告の概況』によると、日本での無痛分娩の割合はわずか8.6%ですが、この数値は徐々に増加している傾向にあります。

2. 「完全に」無痛になるの?

無痛分娩という言葉から、多くの方が文字通り「全く痛みのない出産」をイメージするかもしれません。

しかし、実際には多くの医療機関で行われている無痛分娩は、ある程度の痛みや感覚を残した状態で実施されています。出産の過程で、妊婦さんが陣痛や赤ちゃんの動きを感じ取り、適切なタイミングでいきむことが、安全で効果的な分娩に不可欠だからです。

完全に痛みを取り除く無痛分娩を提供する病院も存在しますが、陣痛を全く感じとれないと、適切なタイミングでいきむことが難しくなり、出産が難航する可能性があるのです。そのような場合、陣痛促進薬の投与が必要になることもあります。

このような理由から、多くの医療機関では痛みを完全に取り除くのではなく、ある程度の感覚を残しつつ痛みを軽減する方法を採用しています。

💡一部の病院では「和痛分娩」という言葉を用いて、痛みをある程度残した無痛分娩を表現しています。この表現には、出産時の痛みを和らげながらも、分娩に必要な感覚を母体が感じ取れるようにするという意味が込められています。

3. 無痛分娩のメリット・デメリット

無痛分娩は、出産時の痛みを軽減する方法として注目されていますが、そのメリットとデメリットを十分に理解することが重要です。

3-1. 無痛分娩のメリット

痛みを減らせる

無痛分娩の最大のメリットは、出産時の痛みを減らせることです。
出産の痛みは人それぞれですが、しばしば「指を切断する痛み」と表現されるほど。痛みが少なくなることで、お産のつらさが減るだけでなく、あとで説明する「体力が温存できる」ことや「リラックスできる」といった他のメリットにもつながります。

体力を温存できる

通常の出産では、痛みに耐えるために多くの体力を使いますが、無痛分娩では、痛みが軽減されることで、出産時の体力消耗を抑えることができます。これにより、出産後の回復が早まり、赤ちゃんとの生活にスムーズに適応できる可能性が高まります。

リラックスできる

出産時の不安や怖さを和らげられるのも大きなメリットです。前もって無痛分娩の準備をしておくことで、出産に対する心の準備ができ、より落ち着いてお産に臨むことができます。

3-2. 無痛分娩のデメリット

分娩の進行が遅くなる可能性

無痛分娩を行うと、麻酔で陣痛が弱まるため、赤ちゃんを押し出す力が弱くなります。そのため、お産が長引きやすくなります。
この問題に対処するため、陣痛促進剤を使って長引くのを防ぐことがありますが、これにより赤ちゃんの状態が悪くなる「胎児機能不全」が起きる可能性があります。

医療介入のリスク

胎児機能不全が起きた場合は、緊急帝王切開や器具を使ってお産を進める「鉗子分娩」や「吸引分娩」を行うケースもあります。
実際、吸引分娩になる確率は自然分娩では約8%ですが、無痛分娩では約20%まで上がるといわれています※。鉗子や吸引器の使用は、母体や赤ちゃんの頭を傷つけるリスクも伴います。
また、あらかじめ無痛分娩の日を決めて行う「計画無痛分娩」では、陣痛促進剤を使って分娩することになるため、これらの懸念をよく理解しておくことが大切です。
※出典:国立大学法人 浜松医科大学「硬膜外無痛分娩 説明書」

合併症のリスク

分娩の進行が遅れると、赤ちゃんの頭が長時間お母さんの神経を圧迫し、排尿障害や神経障害(足のしびれや感覚麻痺)などの合併症のリスクが高まる可能性があります。

副作用

合併症以外にも、無痛分娩を行う際に使用する麻酔には、以下のような副作用を引き起こす可能性があります。

  • 足の感覚が鈍る
  • 血圧低下
  • 排尿障害
  • 発熱
  • 頭痛
  • かゆみ

麻酔事故の可能性

無痛分娩で麻酔チューブを挿入する硬膜外腔には、血管が多く存在しており、チューブが誤って血管内に入ってしまうことがあります。少量なら大きな問題になりませんが、チューブの位置を誤認したまま大量の麻酔薬を注入すると、けいれんや呼吸停止などの重い副作用を起こす可能性があります。

このリスクへの対策として、一部の病院では麻酔薬に少量のアドレナリンを混ぜ、心拍数の変化を見て血管内挿入を早く見つける方法を使っています。こうした安全対策があるか、事前に確かめておくとよいでしょう。
また、麻酔チューブを介した細菌感染や、硬膜外腔の奥にある「クモ膜下腔」への麻酔薬の誤投与による呼吸困難など、起こる確率は極めて低いですが、潜在的なリスクがあることも知っておく必要があります。

4. 無痛分娩の麻酔方法

無痛分娩においては、様々な麻酔方法が存在しますが、最も一般的に用いられているのが「硬膜外鎮痛法」です。この方法では、背骨の近くにある硬膜外腔と呼ばれる部位に細い柔らかいカテーテルを挿入します。このカテーテルを通じて麻酔薬を投与することで、出産時の痛みを伝える神経の多くが存在する背骨の中の神経を遮断し、痛みを和らげることができます。

出典:日本産科麻酔学会ウェブサイト「無痛分娩Q&A」より)
https://www.jsoap.com/general/painless/q4

5. 無痛分娩の種類

無痛分娩には、「自然無痛分娩」と「計画無痛分娩」の2種類があります。
自然無痛分娩は、妊婦が自然に陣痛を迎えるのを待ち、陣痛が始まったら硬膜外麻酔を行う方法です。一方、計画無痛分娩は、あらかじめ出産予定日を設定し、その日に合わせて陣痛を誘発しながら硬膜外麻酔を実施します。

日本では、多くの医療施設が計画無痛分娩を採用しています。これは、自然無痛分娩では陣痛が自然に始まった時点ですぐに麻酔を行う必要があるため、24時間体制で専門の産科麻酔医が待機していなければならないからです。そのため、自然無痛分娩は主に大学病院や総合病院など、十分な体制を整えた施設で行われています。

6. 無痛分娩の価格

無痛分娩は健康保険が適用されず、基本的に全額自己負担となります。費用は医療機関によって異なるので、事前に確認しておきましょう。

7. 無痛分娩の注意点

無痛分娩を希望する場合は、産院に24時間体制で待機している麻酔科医がいるかどうかを確認することが大切です。
自然無痛分娩で陣痛が始まったとき、あるいは計画無痛分娩でも予期せぬタイミングで陣痛がきた場合に、麻酔科医が対応できないと自然分娩に変更されることがあるためです。

また、分娩が予想以上に早く進むと、麻酔が間に合わず自然分娩になる可能性もあります。そのため、産院の麻酔科医の待機体制や、陣痛開始後の対応プロセスも十分に理解しておく必要があります。

8. まとめ

本記事では、無痛分娩について詳しく説明しました。
無痛分娩は、出産時の痛みを和らげる方法として人気が高まっています。無痛分娩のメリットとデメリットを十分に理解し、自身の健康状態や希望に基づいて分娩方法を選択することが重要です。適切な準備と知識を持って出産の準備を進めていきましょう!

ニューボーンフォトグラファーの写真
監修者紹介
ひょうどう ゆか
兵頭 友華
|助産師
京都大学医学部、京都大学大学院医学研究科を卒業後、都内の大学病院に入職して助産師として勤務。現在は都内の産婦人科クリニックに勤務しつつ、USAGI PHOTOにて産後支援を兼ね備えたニューボーンフォトグラファーとして活動。
カテゴリ:
分娩期
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